the Caduceus of Hermes

鎮魂歌


暗く、静かな廊下に控えめなノックの音が響く。

「…失礼してもよろしいですかな?パトリック様。」



…その呼び方はするなと言ったのは二年も前か。

またこうして呼ばれるのも妙な気持ちだ。

読んでいた本をそっと閉じ、声の主を招き入れる。




「シャルロッテ様がお目覚めになったようです」

そう。

「…行かれないのですか?」

私にも複雑な心境というものが存在するものでね。



そうですか、と言いつつ彼ーオスヴァルトは一本のワインボトルに手を伸ばす。

こんな時に酒を勧めるとは…相変わらず食えない。


「私にも複雑な心境というものが存在するものですから…。さぁ。」

二度目の誕生祝ですよ…いえ、復活祝と言った方がよろしいですかな?


と、冗談交じりにグラスを鳴らす。


フ…私は神など信じていないよ、オスヴァルト。






「予想外の事態が起こりましたね。」


予想外?それは違うよ、オスヴァルト。

だって、この出来事で私には何の不利益も生じていない。


左様ですか…と笑う男は、

月が雲に隠れた瞬間、ちらりと時計に目をやった。


彼が口を開くより少しだけ早く、話を切り出した。


…久しぶりに会うんだ、オスヴァルト。聞かせてもらうよ…君の話を。




「では…」

そう言いかけた途端、またしても控えめで、少し慌てた様子のノックが響く。


「失礼します、ノア…パトリック様。シャルロッテ様が貴方をお呼びで…!」


ああ、分かったよ、ブノワ。すぐに行く。


目が合ったオスヴァルトと、先に肩をすくめたのはどちらだったかな。


「私はここに居りますので、どうぞ…パトリック様。…で、よろしいのですよね?」




−ああ。



外套を羽織って廊下へと歩き出す。

私は

パトリック・ジェレマイア・ロンズデール。





…君にお別れを言うのはこれが二度目だね。


さようなら

ノア・ハイラム・トンプソン


 
ノア(パトリック) 20:30 comments(0)
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