the Caduceus of Hermes

kampfloser Sieg


「んん・・」



重い



「んんん〜っ・・・!」



重いよ



「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛〜〜〜!!!」



だからさ



「重いんだってば!」



背中が。



「前言撤回!君、全然痩せてなんかないよ・・・聞いてる?ウォーレン」



死体を引き取るとは言ったものの・・・
ボクが持って帰ることになるとはちっとも思わなかった。



「我らが近衛隊長なんだからさ、こういう時も部下に気を遣ってほしいよね。
 ただでさえ二年間も好き勝手やってたんだからさ。
 よくないよ?そういうの。」



リクは『館に着くまでは何があるかわからないからオレはクラウス様を』
なんて言ってたけど・・・
絶対、死体を運ぶのが気持ち悪いだけだよね?



「もっとボクを見習って勤勉になってほしいね。
 ボクだったら死体になる時だってこんなヘマはしないよ?
 まず君、撃たれるにしたってさぁ・・・」



・・・無理、かな。
あのウォーレンが何も出来ずに撃たれるがままだった。


あの場にいたほぼ全員に気取られる事なく。
おまけにロンズデール子爵の射線上にはエッフェンベルク嬢も
いたはずなのに、躊躇することなく、実に正確に、ウォーレンの
反撃を許すことなく彼を撃ち抜いている。



「完敗・・・だねぇ」



その後の彼の差配も実に見事だ。
その場に残された表面上の事実は『侵入者を排除した』という事。
半分事実で半分虚実なこの刃傷沙汰は、ルーデンドルフ家の人間を
除けば納得しやすいと言える。



「彼の言い分を聞いているとそうなるには幾分早かったみたい
 だけれど・・・ともあれロンズデール家には傷一つつかない」



反面、ルーデンドルフ家の被害は甚大だ。
さすがに全てを世間に明かされる事は無いだろうけど、一部の事実
としては「ルーデンドルフの人間がロンズデールの家に忍び込んで
その婚約者を殺害しようとした」という汚名が残った。
この事実をちらつかせるだけでも、今後しばらく彼に逆らう事は
できないだろう。



「勿論、空白の二年間があるから
 『そんな人間はルーデンドルフ家にはおりません』
 としらを切る事もできるけれど・・・
 まぁ、クラウス殿に限ってはその選択肢はないかな?
 お父上の選択はわからないけどね」



しばらくはその対応に追われる事になるだろう。
それも早急にロンズデール家なり他の貴族となり話をつけなければ
ならない。



「なにせ・・・あのおじさんもロンズデール家警護隊の一人
 だったんだからね」



オスヴァルト・ハーゲン・ダブロフスキー。
事務弁護士としての彼の名は貴族間で名高い。
各貴族家への出入りは容易だろう。
それはつまり、ロンズデール家に優位に話を進む事に他ならない。



「それに、彼のような人もギフトシュランゲの一員だったという事は・・・
 他にも、他家に潜入している者がいると考えるべきなんだろうね」



どれほどの人間を方々に散りばめているのだろう。
なにせロンズデール子爵自身が堂々と使用人を装って他家に赴くくらいだ。
ルーデンドルフ家にだっていないとは限らない。



「見た目に騙されちゃいけない、という方針なのかな?
 いやはや同級生殿、皮肉が効いているねぇ」



さしあたってロンズデール子爵がまず採るべき選択肢は二つだ。
つまり、ウォーレンの穴を自らで埋めるのか他人で埋めるのか。



「自らで埋める場合は、いよいよ歴史の表舞台に立つという所かな?
 いやいやここはあえて『ロンズデール子爵は婚約者を守るために
 死にました』と穴を開けたままにするのも面白いかもしれないねぇ」



そうしたらどうする?



「面白い・・・ねぇ」



そうしたらどうなる?
戸籍の無い、痛覚も無い、年もとらない人間が一人
この世に生まれるという事だ。


「いずれにせよ大衆の前で婚約発表をしたのは『ウォーレンが演じる
 ロンズデール子爵』だったからね。
 『トンプソンさんが演じるロンズデール子爵』がこのパラドックスを
 どう整合していくのか・・・お手並み拝見だね、同級生殿。
 ・・・っと」



一人、会話に白熱して思わずバランスを崩す。
背に担いだウォーレンは冷たくて、重い。



「君だったらどっちの近衛隊長になりたい?
『存在しないはずの人間』か、『存在を隠さざるを得ない人間』か。
・・・うわゎゎゎ。」



ドサリ、ウォーレンが前のめりに重くのしかかる。



「ごめんごめん、わかってるよ。
 いやそれはさ、君はやりたい事やって満足かもしれないけれど、
 ボク達はこれからきっと大変なんだから」



嫌味の一つも言わせてくれ、と思う。



「ホント、残された方の身にもなってほしいよね。
 大体いつも思いつきが急なんだから。
 何も『勝負に勝ったら実験に付き合ってくれ』って約束した
 日にいなくなる事はないじゃないか」



死体は、何も応えない。



「もう実験できないから意味無いけど」



重さに負けて。



「不戦勝・・・また一回増えちゃったなぁ」



頭だけがズシリと垂れた。
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